健康食品から医薬品成分が出たとき、広告を直しても違反は消えません

2026年9月10日、東京都が報道発表しました。いわゆる健康食品として売られていた2製品を都が買い上げて成分検査したところ、両方から専ら医薬品に含まれる成分が検出されています。私はふだん広告表現のチェックを仕事にしていますが、この件については、広告を全部書き直しても違反は消えません。根拠の条文が、表現ではなくモノを対象にしているからです。

82mg
「BLACK HORSE」1包中から検出されたタダラフィル
4.1倍
国内で承認されている最大規格(シアリス錠20mg)との比
139mg
「MAXMAN」1個中から検出されたシルデナフィル
邦文表示なし
名称・原材料・製造(輸入)者のすべて

出典=東京都 保健医療局「医薬品成分を含有する製品の発見について」令和8年9月10日、および同 別紙1。4.1倍は、都の参考資料に記載された承認規格(5mg・10mg・20mg)のうち最大の20mgと検出量82mgを比較したものです。

何が出たのか

都は健康食品による健康被害を未然に防ぐため、販売店やインターネット通販で製品を買い上げて検査しています。今回はその過程で出てきた2製品です。いずれも、これまでに健康被害の発生報告は受けていないと都は書いています。

無承認医薬品2026.09.10 公表

1包にタダラフィル82mg

「BLACK HORSE」/形状:液体

別紙1(原文)1包中「タダラフィル」を82mg 検出

タダラフィルは国内でシアリス錠として承認されていて、規格は5mg・10mg・20mgです。承認されている最大の20mgと比べると、その4.1倍が1包に入っていたことになります。都の参考資料は添付文書上の警告として、硝酸剤や一酸化窒素供与剤との併用で降圧作用が増強すること、死亡例を含む心筋梗塞等の重篤な心血管系の有害事象が報告されていることを挙げています。

製品表示は、名称・原材料・製造(輸入)者のいずれも邦文表示がありませんでした。パッケージから読み取れたのはバッチ番号と製造年月・使用期限だけです。

違反の事実
薬機法 55条2項
都の対応
販売事業者を所管する横浜市へ通報
健康被害
報告なし
無承認医薬品自主回収の指示2026.09.10 公表

1個にシルデナフィル139mg、そして販売店に自主回収の指示

「MAXMAN」/形状:粒/内容量10粒

別紙1(原文)1個中「シルデナフィル」を139mg 検出

シルデナフィルは、そのクエン酸塩がバイアグラ錠等として承認されています。ただし都の資料は販売名を挙げるだけで規格を書いていないので、ここでは倍率を出しません。検出量だけを事実として置きます。副作用として血管拡張・頭痛・動悸等、警告はタダラフィルと同じ内容が記載されています。

こちらも名称・原材料・製造(輸入)者とも邦文表示なし。そしてこの製品については、都が販売していた都内の店舗に対して販売中止と自主回収を指示しています。

違反の事実
薬機法 55条2項
都の対応
都内店舗(新宿区)に販売中止及び自主回収を指示
健康被害
報告なし

広告を直しても消えない理由

薬機法が広告に効く条文は、66条(誇大広告等)と68条(承認前の医薬品等の広告の禁止)です。私がふだん見ているのはここで、表現を直せば違反はなくなります。原稿を書き換えれば済む世界です。

今回の根拠は55条2項。この条文の対象は表現ではなくモノで、禁じられているのは次の行為です。

薬機法 第55条(販売、授与等の禁止)第1項(2項が準用)販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

陳列した時点で、すでに条文に当たります

販売が成立していなくても、売る目的で棚に置いた時点で対象です。だから「まだ1個も売れていない」は抗弁になりません。広告を全部下ろしても、在庫が店にあるかぎり状態は変わらない。ここが広告規制との決定的な違いです。

言い方を変えると、広告表現のチェックは、この類型に対して無力です。自分の商品を否定するようですが、事実なので書いておきます。表現を整えるより前に決着がついている話で、順番が違います。

回収を指示されたのは、作った会社ではなく売っていた店です

今回いちばん実務に効くのは、検出量ではなくここだと思います。都の対応は2製品で分かれました。

製品都の対応
BLACK HORSE製品を販売した事業者を所管する横浜市へ通報
MAXMAN製品を販売した都内店舗(新宿区)に販売中止及び自主回収を指示

MAXMANのほうは、製造者でも輸入者でもなく、店舗が名指しで販売中止と自主回収を指示されています。

仕入れて棚に並べただけの事業者が、回収の当事者になります。「うちは製造していない」「輸入もしていない」は、55条2項の前では効きません。条文が販売と陳列を、製造とは独立して禁じているからです。

これは輸入品を扱うEC・小売・並行輸入に直撃します。海外のサプリを仕入れて売る商流では、中身を自分で確かめる手段がないまま在庫を持つことになる。そして行政が最初に接触するのは、日本国内で売っている側です。海外の製造元には日本の行政執行が事実上届かないので、構造的にそうなります。

この点は、広告についても同じ形をしています。海外ブランドの日本向けページで、本社が作った広告文をそのまま載せていた場合でも、薬機法66条・68条の主語は「何人も」なので、日本で広告した側が対象になる。売る側が矢面に立つという構造が、広告でもモノでも共通していると考えておいたほうがいいです。

邦文表示が、1つもありませんでした

別紙1で目を引くのは、検出量より製品表示の欄かもしれません。2製品とも、次の3つが同じ記載でした。

項目記載
名称邦文表示なし
原材料邦文表示なし
製造(輸入)者邦文表示なし

都が「違反の事実」として挙げたのは55条2項だけです

念のため書いておくと、東京都は表示について別の法違反を指摘してはいません。ここでは行政の判断としてではなく、仕入れの現場で使えるサインとして書いています。

とはいえ、日本語の名称も原材料も製造者も書かれていない製品が国内の店頭に並んでいた、という事実のほうが実務では重い。これは広告原稿を作る前の段階、つまり仕入れるかどうかの判断で止まる話です。

同じ成分が、毎年出ています

今回が例外的な事故かというと、そうではありません。東京都が令和8年3月に公表した令和7年度の健康食品試買調査では、6製品から医薬品成分が見つかっています(検出成分=タダラフィル、シルデナフィル、ジクロフェナク、アシュワガンダ)。今回の2製品と同じ成分が並んでいます。

同じ調査では、購入した健康食品の94%(125製品中118製品)に不適正な表示・広告が見つかりました。ただしこの数字の読み方には都自身が注記を付けていて、違反の可能性が高いと判断した製品を選んで購入した結果であり、健康食品市場全体の違反率を示すものではないとしています。市場の94%が違反、という話ではありません。

押さえておきたいのは率ではなく、行政が毎年これを続けていて、同じ成分が繰り返し出てくるということのほうです。ED・痩身・筋肉増強・睡眠の領域は、無承認医薬品の発見情報で何度も名前が挙がります。

順番を決めておく

広告のチェックは2段目です。1段目が黒なら、2段目をどれだけ磨いても意味がない。

見るもの根拠になる条文
1段目|モノ
区分・成分・表示
薬機法55条2項ほか
2段目|広告
表現
薬機法66条・68条、景品表示法、健康増進法

仕入れの段階で見るところ

4つだけ挙げます。

見る場所引っかかったら
邦文の表示(名称・原材料・製造者/輸入者)1つでも欠けていたら仕入れを止めて確認する
売り文句の強さ体感がはっきり出ると謳う製品ほど、成分が入っている可能性を疑う
カテゴリED・痩身・筋肉増強・睡眠は、発見情報で繰り返し出てくる領域
販売元が成分分析表を出せるか出せない相手からは仕入れない

広告の原稿を私のところへ持ってくる前に、この4つが済んでいるかを確認してください。ここが抜けていると、私が原稿をどれだけきれいにしても、守れるものが何もありません。

この記事の一次資料

確認しておくなら

いま扱っている商品のうち、海外から仕入れているものについて、邦文表示と成分分析表が手元にあるかを見てください。そこが揃っているなら、次は広告表現です。

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