先に、いちばん重要な仕組みを書きます。行政は、あなたの広告が嘘だと証明する必要がありません。あなたが本当だと証明できなければ、それだけで処分されます。(景品表示法7条2項・不実証広告規制)
Case 01
大正製薬株式会社 / 消費者庁 措置命令 / 対象商品「NMN taisho」
2024年4〜5月、インフルエンサー3人にInstagramでの宣伝を依頼し、その投稿を自社オンラインショップに転載していました。転載の際に「広告」「PR」等の表示がなく、閲覧者に第三者の感想と誤認させる表示にあたるとされています。
ステマ規制が始まって以降、健康食品での認定はこれが初めてでした。ステマ告示としては3事案目です。
大正製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
caa.go.jp ↗ 商事法務ポータル消費者庁、大正製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令
portal.shojihomu.jp ↗ 牛島総合法律事務所大正製薬に対するステルスマーケティング規制(ステマ規制)に基づく行政処分事例
ushijima-law.gr.jp ↗出典:消費者庁 措置命令(令和6年11月13日)
Case 02
ロート製薬株式会社 / 消費者庁 措置命令 / 対象商品「ロートV5アクトビジョンa」
第三者に商品を無償提供する条件でInstagramへの投稿を依頼し、その投稿内容を自社の広告内に掲載していました。この会社はPR表示を入れていました。それでも処分されています。
掲載様式が「画像をクリックすると投稿本文が表示される」形だったため、クリックしない閲覧者には関係性を明示した表現が見えない状態になっていました。報道によれば、設定の不備により1件の広告でその状態が生じていたとされています。
PR表示を入れたかどうかではなく、閲覧者に見えているかどうかで判断されます。クリックしないと見えない、スクロールしないと出てこない、小さすぎて読めない。いずれも「表示した」ことになりません。
ロート製薬は同日、自社サイトで謝罪のコメントを発表し、指摘された広告を削除・修正しています。大正製薬の措置命令からわずか4か月後、ステマ告示としては5事案目でした。
転載した時点で、それは広告主自身の表示になります。元の投稿でPR表示をしていたかどうかとは別に、転載先で判断されます。
ロート製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
caa.go.jp ↗ Web担当者Forum消費者庁がロート製薬に措置命令、サプリメントWeb広告で景品表示法のステマ規制違反
webtan.impress.co.jp ↗出典:消費者庁 措置命令(令和7年3月25日)
大手製薬会社が2社、4か月の間に、同じことをして処分されました。やっていたのは、インフルエンサーやモニターに投稿を依頼し、それを自社サイトに載せるという、いま多くの会社が普通にやっている運用です。
依頼した投稿を自社サイトやLPに転載していませんか。その転載先で、PR表示はクリックしなくても見えますか。ロート製薬は表示を入れていて、なお処分されました。ここが最も多くの会社に当てはまる論点です。
Case 03
株式会社エムアンドエム / 消費者庁 課徴金納付命令 / 対象商品「アンリンクル」(医薬部外品)
医薬部外品の広告で、美容医療で得られる効果と同等であるかのように表示していた事例です。命令書は、本件商品を使うだけで、含まれる成分の作用により、数秒間等の極めて短い時間で、目周辺や口周辺、首等についていわゆる美容医療と同様のシワ改善効果を得られるかのように示す表示をしていた、としています。医薬部外品として承認された効能の範囲内で書いていたかどうかは、判断に影響しませんでした。
医療と比べた時点で、承認された効能より高い水準を主張したことになります。医薬部外品で「シワ改善」と書けることと、「美容医療と同等」と書けることは、まったく別の話です。
出典:消費者庁 課徴金納付命令(令和7年12月2日)
Case 04
Snow Corporation / SNOW Japan株式会社 / 消費者庁 措置命令
AIで加工・生成された画像を使った投稿であっても、対価の提供と投稿方針の指示があればステマ告示の対象になると示された事例です。生成物であるかどうかは判断に影響しません。
さらに重要なのが名宛人の範囲です。国内表示の決定を子会社に委ねていた海外の親会社も、関与が認められて名宛人になりました。委任していたことは免責の理由になっていません。
「SNOW」と称するアプリケーションの利用サービスの提供事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について
www.caa.go.jp ↗ 消費者庁同 報道発表資料(令和8年8月6日)
www.caa.go.jp ↗出典:消費者庁 措置命令(令和8年8月6日)
Case 05
高光製薬株式会社 / 消費者庁 措置命令
依頼または提供にもとづく投稿を、SNSの公式アイコンを模したイラストと「SNSでも大人気!」という文言とともに掲載していました。自然発生の口コミや人気であるかのように演出した点が中核とされています。
文言そのものよりも、演出が問われました。健康食品・化粧品のECやLPで頻出するパターンです。
出典:消費者庁 措置命令(令和8年6月29日)
Case 06
株式会社boxXXX(東京都千代田区)/ 株式会社Beiiiii(福岡市中央区)/ 消費者庁 措置命令 / 対象商品「NOMORE」(尿失禁対策用の下着)
冒頭で書いた不実証広告規制が実際に適用された事例です。認定されたのは、本件商品を着用して失禁した場合に200cc又は100ccまでの尿であれば商品の外側に漏れ出さない効果が得られるかのように示す表示でした。
注記として示されていた検査は「※2 吸水・堅牢度検査結果(2023年11月 一般財団法人ボーケン品質評価機構大阪試験センター実施)」です。第三者機関の検査は、検査した項目についてしか根拠になりません。吸水と堅牢度の検査を示して消臭まで「高品質と認められている」と書けば、検査範囲を超えた一般化になります。
2社で、つまずき方が違いました。景品表示法7条2項にもとづく資料提出の求めに対し、boxXXXは資料を提出しています。それでも「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」とされました。Beiiiiiは期間内に資料を提出しませんでした。出せば済むという話ではありません。
尿失禁対策用の下着販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について(令和8年4月28日公表)
www.caa.go.jp ↗ 消費者庁同 報道発表資料(別表に表示内容の全文あり・PDF 7.3MB)
www.caa.go.jp ↗出典:消費者庁 措置命令(令和8年4月27日および28日・同月28日公表)
Case 07
プルチャーム株式会社 / 東京都 措置命令 / 対象商品「イクモアナノグロウリッチ」(育毛剤・医薬部外品)
2つの点が同時に問われました。ひとつは効果の水準としてノーベル賞を持ち出したこと。受賞は研究に与えられたもので、製品に与えられたものではありません。
もうひとつが在庫表示です。実際の在庫が十分あるにもかかわらず購入を急がせる文言を置いていた点も、不当表示として認定されました。東京都はこの1件で優良誤認5件とステルスマーケティング告示違反2件、あわせて7件を認定しています。カートの在庫アラートを固定文で出している場合は、実在庫と連動しているかを確認する必要があります。
景品表示法に基づく措置命令(令和8年3月23日・プルチャーム株式会社)
www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp ↗ 東京都 東京くらしWEB景品表示法に基づく措置命令事業者一覧
www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp ↗出典:東京都 措置命令(令和8年3月23日)
Case 08
株式会社LAVA International / 消費者庁 確約計画の認定 / エステティックサロン「DanjoBi」「MUQU」
ホットペッパービューティーの口コミ欄で、星5の口コミを投稿することを条件に、次回施術料金から500円を割り引くと第三者に伝え、投稿させていました(令和6年2月頃〜令和7年6月23日)。あわせて、自社の従業員自身が星5の口コミを投稿していた事実も認定されています(令和5年10月1日〜令和7年2月13日)。さらに、クーポンメニューで直近に提供実績のない価格を比較対照価格として併記し、実際より安く見せる二重価格表示も行っていました(令和3年1月1日〜令和6年11月21日)。
この事案が他の7件と違うのは処分の型です。措置命令や課徴金納付命令ではなく「確約手続」が使われました。事業者側から自主的な改善計画を申請し、消費者庁がその内容を十分と認めれば認定される仕組みで、違反の認定そのものはされません。それでも確約計画には、対象クーポンを利用した消費者への返金が含まれています。改正法施行後2件目の適用事例とされています。
「レビューを書いたら割引」自体は違法ではありません。正本の判定軸は、投稿内容を指定したかどうかです。星5を条件にした時点で、指定に当たります。エステ・整体・美容系の口コミ運用で最も再現されやすい型です。
株式会社LAVA Internationalから申請があった確約計画の認定について
www.caa.go.jp ↗ 消費者庁同 報道発表資料(令和7年8月28日)
www.caa.go.jp ↗出典:消費者庁 確約計画の認定(令和7年8月28日)
構造
ここまでの8件は、すべて社名が公表された処分・確約計画です。だから記録として書けます。ただし、社名が公表される処分は、行政指導全体のごく一部でしかありません。
| 監視期間 | 改善指導 |
|---|---|
| 令和7年 4-6月 | 139事業者 140商品 |
| 令和7年 7-9月 | 142事業者 155商品 |
| 令和7年 10-12月 | 152事業者 170商品 |
| 令和8年 1-3月 | 156事業者 176商品 |
| 令和7年度 合計 | 589事業者 641商品 |
| 令和8年 4-6月 | 117事業者 126商品 |
出典:消費者庁「インターネットにおける健康食品等の虚偽・誇大表示に対する改善指導について」各期
年間589事業者が指導を受け、広告を止めて直しています。それでも社名は出ません。だから周囲を見渡しても「誰も何も言われていない」ように見えます。
しかもこの件数は四半期ごとに増えています(139→142→152→156)。指導件数と改善件数は完全に一致しており、指導が来たら直さないという選択肢は事実上ありません。
ここまで読んで心当たりがあったなら、確認しておいた方がいいと思います。処分された事例の多くは、書いた本人が「これは大丈夫だろう」と考えていたものです。
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