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「うちは指摘された
ことがない」が
通用しなくなった理由

健康食品・化粧品・クリニックの広告規制。指導を受けた事業者の名前は、公表されません。だから周りで誰も捕まっていないように見えます。行政側の一次資料に載っている数字で整理しました。

01

なぜ周りで誰も指摘されていないのか

健康食品や化粧品の広告について相談を受けると、ほぼ必ず同じことを言われます。「うちは何年もこの表現でやっていますが、一度も何も言われたことがありません」。同業を見渡しても、行政から連絡が来たという話は聞こえてこない。だから今のままで問題ないはずだ、と。

この感覚自体は、嘘ではありません。実際に周囲で誰も指摘されていないように見えるからです。ただ、そう見える理由は「指導が少ないから」ではありません。

消費者庁の改善指導では、事業者名が公表されません。措置命令のように社名が出るわけではないので、指導を受けた当事者以外は、その存在を知る手段がありません。

消費者庁は健康増進法にもとづいて、インターネット上の健康食品等の表示を継続的に監視しています。その結果は四半期ごとに公表されていますが、そこに載るのは件数だけです。

監視期間改善指導
令和7年 4-6月139事業者 140商品
令和7年 7-9月142事業者 155商品
令和7年 10-12月152事業者 170商品
令和8年 1-3月156事業者 176商品
令和7年度 合計589事業者 641商品
令和8年 4-6月117事業者 126商品

出典:消費者庁 表示対策課ヘルスケア表示指導室「インターネットにおける健康食品等の虚偽・誇大表示に対する改善指導について(令和8年4月〜6月)」令和8年9月4日公表。健康増進法第65条第1項にもとづく監視。

この表から2つ読み取れます。ひとつは、四半期ごとに件数が増えていること(139→142→152→156)。もうひとつは、改善指導を受けた事業者が、例外なく全件改善していることです。指導件数と改善件数が完全に一致しています。

つまり指導が来たら、直さないという選択肢は事実上ありません。年間589事業者が、広告を止めて直しています。それでも表に出てこないので、体感としては「誰も何も言われていない」になります。

静かなのは、何も起きていないからではなく、起きたことが公表されない仕組みだからです。

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実際に指導対象になった表現

同じ資料には、どういう表現が指導されたかが商品区分ごとに載っています。以下はすべて、令和8年4月〜6月の3か月間に実際に指導対象となったものです。

いわゆる健康食品(カプセル・錠剤・顆粒状等)95商品

ダイエット/脂肪燃焼/口臭予防/糖と脂肪の吸収を抑える/高血圧予防/血液サラサラ/アトピー予防/アンチエイジング/腸内環境を整える/抗酸化作用/デトックス効果/免疫力向上/身体のめぐりサポート/花粉対策/ホルモンバランス調整/不眠改善/ストレス軽減/妊活/血流の循環の改善

飲料等(茶・コーヒー・飲料水)5商品

血行促進/代謝アップ/動脈硬化予防/コレステロール抑制/糖尿病予防/集中力向上

加工食品(農産加工品等)23商品

花粉症対策/アレルギー症状抑制/妊活/血液サラサラ/貧血・冷え性の改善/ダイエット/腸内環境改善/美肌・美白効果

生鮮食品(農産物・水産物)3商品

抗酸化作用/疲労回復/冷え/老化防止/肌のシミ・シワの予防

健康食品による肌への効果

美肌形成/肌のシワ・たるみケア/肌の弾力アップ/肌に潤いを与える/肌荒れ・老化予防/紫外線対策/肌のハリ・ツヤ回復

目を引くのは、攻めた表現ばかりではないことだと思います。「腸内環境を整える」「身体のめぐりサポート」「抗酸化作用」あたりは、多くの事業者が安全な言い方だと考えて使っている表現です。

ただし、これらの語が常に違反になるわけではありません。機能性表示食品として届出をしていれば、届出の範囲内で表示できるものもあります。同じ言葉でも、届出の有無と商品区分で結論が変わります。

逆に言えば、言葉だけを見て安全かどうかは判断できないということです。届出の有無、商品区分、書かれている場所。この3つを揃えないと、適法か違法かは決まりません。自社の表現が届出の範囲に収まっているかは、届出番号から実際の届出表示を引いて突き合わせる以外に確認する方法がありません。

02

監視する側が、AIを導入した

ここ2年で、行政側の見つけ方そのものが変わりました。医療広告のネットパトロール事業では、令和7年度からAIによる違反チェックが実務に入っています。

令和6年度から令和7年度で変わったこと

  • AIの学習対象:違反キーワードのみ → ガイドライン・事例解説書まで学習
  • 違反URLの抽出:手動でリスト作成 → 自動でリスト作成
  • 個票の作成:手作業中心 → 個票案まで自動生成
  • 追加学習:なし → 操作者の判断を学習して精度が上がる

結果として、1サイトあたりの作業時間は 3.95時間から1.76時間 に短縮されました。

同じ人数で、倍の数を見られるようになったということです。「今まで見つからなかったから大丈夫」という前提は、ここで崩れています。

皮肉なのは、広告を作る側でも生成AIが使われ始めていることです。生成AIは媒体の違いを理解しません。ホームページでなら書ける表現を、バナーやリスティング広告にもそのまま出してしまう。AIが量産して、AIが検出する構図になりつつあります。

出典:厚生労働省医政局総務課「ネットパトロール事業について(令和7年度)」第7回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会 資料2(令和8年3月26日)。

03

通報を待たずに見に来るようになった

もうひとつ変わったのが、行政が自分から探しに行く「能動監視」の量です。

年度能動監視の実施件数
令和4年度63件
令和5年度173件
令和6年度346件
令和7年度413件(年度目標500件)

4年で6.5倍です。しかも令和7年度は、どの分野を狙って見に行くかまで資料に書かれています。美容152件、歯科35件、がん20件、その他57件。その他の内訳にはオンライン診療、不妊治療、GLP-1などのダイエット、再生医療が並びます。

「うちは通報されるようなことはしていない」は、もう理由になりません。通報がなくても見に来るからです。

媒体の内訳も変わりました。能動監視413件のうち、ウェブサイトが264件に対して、YouTube 67件、Instagram 34件、X 24件、TikTok 24件。SNSと動画が、監視の対象としてはっきり組み込まれています。

04

見に来られたサイトの88%で違反が出ている

令和7年度(令和8年2月末時点)の審査結果です。

項目件数
審査したサイト2,092サイト
違反があったサイト1,842サイト(88.0%)
違反件数の合計5,225件
1サイトあたりの平均2.8件

ここは正確に読む必要があります。この88%は「全クリニックの88%が違反している」という意味ではありません。母集団は通報または能動監視で審査対象になったサイトなので、もともと疑わしいものが集まっています。

それでも言えることはあります。いったん見られる側に回ったら、ほぼ確実に何かが見つかる。しかも1サイトあたり平均2.8件なので、ひとつ直して終わりにはなりません。

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通知が来たあとに起きること

違反が見つかると、まず医療機関へ通知が行きます。令和7年度は1,819サイトへ通知が出ました。その後の流れが、実務としては一番重い部分です。

2月末時点の改善率は68.1%。年度末に向けて上がり、令和元年度の確定値は85.9%でした。つまり通知が来たら、ほぼ全員が最終的には直しています。

逆に言えば、通知=手戻りが確定するということです。広告を止め、原稿を直し、媒体に再申請し、場合によっては制作会社に作り直しを依頼する。その間、広告は出せません。

直接の罰則がなくても、止まっている期間の損失は日割りで積み上がります。景品表示法の措置命令まで行けば社名が公表され、課徴金の対象にもなります。直近では、美容医療と同等の効果を標榜した事業者に588万円の課徴金納付命令が出ています。

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いちばん多い違反は、後から直せない

違反5,225件の内訳を見ると、最多の類型がはっきりしています。

違反の類型割合
広告が可能とされていない事項の広告30.5%
誇大広告23.3%
その他(品位を損ねる・費用強調等)14.7%
治療前後の写真等14.3%
比較優良広告9.3%
体験談5.2%
虚偽広告2.8%

最多の「広告が可能とされていない事項の広告」は、言い換えると限定解除の要件を満たしていないということです。自由診療の内容や費用を書くには、リスク・副作用・標準的な費用などを一体で示す必要があります。それが揃っていなければ、そもそも書けません。

ここが厄介なところです。これは言葉を1つ2つ言い換えて済む問題ではありません。ページの構成そのものに必要な情報が入っていないので、直すには作り直しに近い作業が要ります。

さらに、バナー広告とリスティング広告については、限定解除そのものが成立しません。令和8年3月30日の事例解説書(第6版)に明記されています。ホームページでなら条件を満たして書ける内容が、バナーでは一切書けない。同じ文言でも媒体が変われば適否が反転します。

制作の順番で言うと、原稿を書いてからチェックするのでは遅いということでもあります。構成を決める段階で入れておかなければ、後から差し込めません。

07

では、今どうすればいいか

すべてを一度に直す必要はありません。ただ、自社の広告が今どの状態にあるかは、把握しておいた方がいいと思います。監視の密度が上がっている以上、順番が回ってくるかどうかの問題になってきているからです。

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